対話型アート鑑賞事業について
UniUni編集長 横田(以下、横田):
アートを見て、何か感じたりできる人がやっぱり減ってきているような気がします。特に若い世代になればなるほど、日常的にみているコンテンツがTikTokとか本当に1分2分のショートムービーで楽しむ流れになってきていて、例えば1時間半とか2時間とかの映画をじっと見ていられない人は今後も増えていくのだと思うのですが、そんな時代背景の中で、アートから何かを感じる、みたいなことができる人はどんどん減っていってるんだろうなと。そんな中で、アートがビジネスをする上で重要だ、という流行的な価値観も出てきているので、その辺がどうバランスしていくのかが結構気になっています。
フクフクプラス共同代表 髙橋さん(以下、髙橋):
まさに、本当におっしゃる通りだなと思っていて、アート、ぼくたちもさっき言ったMoMAで元々やられてた対話型アート鑑賞という、学芸員の方たちが「もっとアートに触れてもらおう」という趣旨で進められていたものなんですが、例えばモナリザとかミロのビーナスとか、あなたはこれを見て何感じますかって言われると、あれだとどうしても答えを探してしまうんです。アートってそもそも人それぞれの価値観とか考え方とか、自分がどう見えたかを言えばいいものだと思うのですが、「これ誰が描いたんだっけ」とか「ちょっと違うこと言ったら恥ずかしいな」とか、そういう思考になっちゃうんです。
髙橋:
昔、中学校の美術の時間のときに、先生がモナリザの絵を出してきて「あなたはこれを見てどう感じますか?」と言われたときに、「なんか悲しそうな顔してます」って言ったら、「これは微笑みの絵です」って言われて、それからぼく、自分には美術のセンスがないんだって思っちゃって。僕には悲しそうに見えたんですよ。だけど、答えを持ってる人から答えを言われて押し付けられた感じがしちゃって、もう美術、わかんない、怖いって思ってました。
横田:
それはひどいですね笑
髙橋:
いま対話型アート鑑賞を事業としてやっていて、障害のある方たちのアートを主に使っている話に繋がるんですが、基本的には皆さん初めて見る、匿名性が担保されてるアートなんですよ。誰が書いたかもわからない、どんな意図で書いたかもわからない状態で、タイトルを全く伏せて「あなたはどのように見えますか」とか「この中からあなたの好きなものを探してみてください」と質問すると、答えがないので何を言っても大丈夫だし、発言してみると周りも「確かにそう見えるね。なんか面白いところみるね」みたいに言ってくれる。
自分の持ってる価値観や答えって人それぞれで違うし、「言っても大丈夫なんだ」っていう場が作られるのをみて、ぼくもアートがすごい好きになりました。知的障害のある方たちのアートは一番やりやすくて、発色もいいですし、そうした研修にはすごい適してるなとも思っています。
横田:
その「言ってもいいんだ」というのが、いわゆる心理的安全性ってやつですよね。発言してそれが認められたら次からアウトプットしやすくなる、みたいなことが社内やチーム内で起きやすくなると思うので、対話型アート鑑賞というのは研修サービスとすごく相性がいいなと思いました。
髙橋:
そうなんです、アートの鑑賞のときだけじゃなく他の会議の場でも、自分が言ったことに対して何か言われたとしても、あの人は別に私に批判してるわけじゃなくて、この答えに対してあの人の意見を言ってるんだ、という捉え方になるので、会議も結構盛り上がりますし、言っちゃいけない感がなくなって、その点がすごくいいなと思います。
横田:
なるほど。障害者さんが、という話だけではなくて、フクフクプラスさんは社会的にも非常に価値のある活動をしてらっしゃると思っているので、時代が早く追いついたらいいなと思いました。
シブヤフォントについて
横田:
シブヤフォントについても伺いたいのですが、渋谷区と提携して「一般社団法人シブヤフォント」として活動されていらっしゃるんですよね。
髙橋:
そうです。一番最初は共同代表の磯村が渋谷区から委託されてやっていた事業を、フクフクプラスが立ち上がってからフクフクの方で委託を受けてシブヤフォントを回していたんですが、いまは独立して、一般社団法人シブヤフォントとして独り立ちして活動しています。
横田:
障害者アーティストさんが書いたアートワーク、あるいはその文字とかパターン、アートをデザインして、フォントとして使ったりとか、例えばその柄・テキスタイルとして使ったり、そういう活動をされてらっしゃるかと思うのですが、フォントやパターンになったものは、主にどういう使われ方をされるんでしょうか。
髙橋:
本当まちまちですが、いま代表的に使われているのは、渋谷区役所の中のサイネージだったりとか、「みんなで思いやり」っていうのが書いてあったり、渋谷区役所のいたるところにシブヤフォントが書いてあったりしますね。あと渋谷区の会議室は、会議室ごとに全部違う柄で見えるようになっていたりとか、アパレルメーカーさんが服に落とし込んでくれたりとか、パンフレットや社内報で使用したいですって企業さんがいたりとか、いろいろですね。
横田:
なるほど。そういえばシブヤフォントは渋谷区とやってらっしゃると思うんですけど、渋谷区と組めることになったのはなぜなのかをもお聞きしたくて、いまおっしゃったように渋谷の中の公共の場のものとして使われていると思うんですけど、そこがめっちゃすごいなと思っていまして。なかなか真似できないですよね。
髙橋:
一番最初は今の現時点の長谷部区長が「何か渋谷のお土産を作りたい」と言っていたようで、福祉課の方も手を挙げたものの、実際それを福祉課の中や地域の福祉施設の方で検討したときに、「うちはパンは焼けるけど」「うちはウサギのりんご作れるけど」という、ちょっとパッとしないところでうまくいかなかったんです。
ちょうどその時に、渋谷区役所の目の前にある桑沢デザイン研究所というデザイン学校で磯村が講師をしていたところに、福祉課の方が声を掛けてくれて、たまたま渋谷区の方も学生とも何か取り組みできるといいね、という話からミニマムスタートしていき、学生ボランティア募って、桑沢デザイン研究所と福祉施設と渋谷区、そして磯村はじめ民間を巻き込んで、連携で何かやりませんか、という流れが始まりになります。
その時はまだシブヤフォントという名前もできてなくて、お土産プロジェクトチームみたいなところから始まりました。福祉を全くかじったことがないけどデザインを学んでる学生たちが1年間福祉施設と関わって、何ができるかのプレゼンをしたんですが、その中の一つに、
「障害者施設に行ったら面白い字を書く人いたんですよね。文字も面白い文字を書くんだけど、Aはめちゃくちゃでかく書くのに、何かOが本当にちっちゃくて、大きさがバラバラなんです。この字で何かできないかなと思って、字をスキャンして、その拡大するだけだと縮小するだけだと、サイズバラバラになっちゃうので、線の細さとか、そこは僕デザインできるから均等にして、みんながタイピングできるように使えるものを作ります」
という学生さんのアイディアがシブヤフォント第一のきっかけになっていて、それがどんどん世に羽ばたいていってるカタチになります。
横田:
すごいですね。そのフォント自体はぼくらでも使えるんですか?
髙橋:
使えます全然!フォント自体はフリーダウンロードできますし、商用利用する場合だけ使用料としていただいているんですけど、基本的に社内で使うスライド資料とかちょっとしたものであれば全然、むしろ使っていただいた方が広まるかなと。種類も300種類ぐらいあって、いろんな福祉施設でも自分たちで書いた文字をスキャニングしてチラシに使っているところもありますが、それをタイピングして文字として使えるようにした仕組みはシブヤフォントだけですし、著作権周りのこともシブヤフォントの方でやっています。
横田:
今もずっと増え続けてるんですか?
髙橋:
増えてます増えてます。毎年学生さんも募ってて、今まではずっとボランティアで学生さんに参加してもらっていて、交通費とか画材買うお金とかは出しているんですけど、一番当初4人ぐらいだったのが一昨年は13人ぐらい入ってくれて、また今年も新しい学生さんが一緒に組んでやってくれています。来年からは桑沢デザイン研究所の授業になるそうです。
横田:
すごいですね。
ちなみに、その文字とか、アートワーク、パターンなんかの素材を作っているのは障害者さんじゃないですか。さきほどおっしゃっていたアートレンタルで使っている作品のアーティストさんとがまた別の方になるんでしょうか。
髙橋:
そうなんです、全く別です。というのも、創作活動としての絵を書くのが好きだけど、アートとして認められるトップオブザ障害者アーティストさんではない、そんな人たちをぼくたちがどうやってデザインの力で底上げできるかというところを考えて、その方たちと組んでいます。絵だけではなくそこにデザインも取り入れながら、世の中に出ていけるものを一緒に作ってるカタチです。シブヤフォントとしてもアートレンタルは受け付けてはいるので、デザインが入ったアート作品をレンタルすることはできます。
横田:
なるほど、ぼくも普段デザインをやっているので、個人としても使ってみたいなと思いました。
今後の展望について
横田:
では最後に、フクフクプラスさんとしての事業展開とか、髙橋さんの今後の展望などのお話をちょっと聞いてみたいなと思うのですが。
髙橋:
会社ってみんなそうかなと思うんですけど、生き物チックだなと最近思っていて、冒頭で言ったビジョンに向かって進んではいるものの、やはりいろいろ形は変わってくるのかなと思っていて。ぼくも2023年に施設立ち上げようと思っていて、より一層地域との繋がりができるところとして、最終的にはやっぱりアートができるできるような施設を作っていきたいと思っているのですが、フクフクプラスでやってる事業をそっちの施設でもやっていきたいというビジョンがあります。
福祉出身なので、ぼくは障害のある方たちに対する生活支援、基盤作りもそうですけど、福祉職員の地位向上というのもやっていきたいなと思っていて、福祉で働く人材がもっと自分の仕事に誇りが持てるように、働き続けられる環境をしっかり整えたい、それがひいては利用者さんたちのメリットになる、という風に考えているので、将来的にはぼくも施設を立ち上げて、そこのノウハウを横展開できるようなスタイルで展開していきたいというのがぼくの個人的な目標になります。
共同代表の磯村は磯村でシブヤフォントをもっと大きくしていって、彼なりの広がり、彼だからできることを広げていますし、デザインを手がける福島は福島でアートとデザインを中心とした取り組みを他のところでもいろんなところで取り組んでいるんですよね。フクフクプラスというハブがしっかりあって、お互いがお互いを助け合いながらやっているので、フクフクプラスとして何かこれから新しく始めるということはそんなにないのかなと思います。
今まで通り、アートレンタル、企業研修など、アートを使った取り組みをやっていくっていうところがメインで、あとはその3人それぞれがフクフクプラス名のもとに何か広げていくような。でも、月1回の飲み会兼共同会議があるんですが、やっぱそこではりいろんな話が聞けて面白いし、この3人だからこそできるものがあるなとは思っています。1つここに何かハブがあり、何かここに家があって、そっから3人は行き帰りするけど、3人がまた別のところでそれぞれ活動を広げていく、みたいな感じですかね。
横田:
なるほど。基盤として事業の方向性も決まっているからこそ、あとは広げていくだけ、ということですね。
冒頭から何回もお伝えしていますが、デザインの力っていうのを本当にうまく活用されていらっしゃる会社さんだと思っているのですが、デザインの本質は問題の解決にあるとよく言われています。伝えたいことを伝えるとか、上手くいってないことを上手くいくようにするとか、そういったところに長けているのがフクフクプラスさんだと思います。御三方それぞれの活動に伴ってどんどんシナジーが生まれそうな展開がすごく楽しみになりました。
ということで、今回の対談は以上になります。髙橋さん、ありがとうございました。
髙橋:
ありがとうございました。
株式会社フクフクプラス
引用元:https://fukufukuplus.jp/
シブヤフォントTwitterアカウント
引用元:https://twitter.com/shibuyafont