編集長の横田です!
今回は、アート×障害福祉の業界で活躍されていらっしゃる株式会社フクフクプラスさんをお迎えして、業界内での動きや事業のことなどを深掘りしていきます。
アート×障害福祉といえば、障害者アーティストの方に絵を描いてもらって、それを販売したりレンタルしたりするのが一般的なイメージですが、それがなかなかうまく行ってない事業者さんも多いのではないでしょうか。
その点で、フクフクプラスさんの取り組みは、例えばデザインを通してプロダクトを開発したり、研修サービスをつくったりなど、そのあたりが非常に優れていらっしゃる企業様だと思いますので、今回は共同代表の髙橋さんから、その秘訣について聞いていきたいと思います。
株式会社フクフクプラス
障がいを持つ人たちが制作したバラエティ豊かな作品を採用し、各所のニーズに合ったアートを提供。デザイン系大学で教鞭をとる教授や講師のデザインスキルで、斬新なアートプログラムを実施し、これまでにデザインプログラム開発の分野で、数々の賞を受賞。
企業向けアートレンタル、対話型アート鑑賞研修、アートノベルティなどのB2Bサービスや障がいのある人のアートを活用した渋谷みやげ開発支援事業「シブヤフォント」の企画運営などを手掛けており、全サービスにおける売上の一部を障がいのある人に還元する社会性と、サービスを導入した企業の経済性の両立を目指して取り組んでいる。
UniUni編集長 横田(以下、横田):
本日はよろしくお願いします。
フクフクプラス共同代表 髙橋さん(以下、髙橋):
よろしくお願いします。
「障害福祉×アート」の業界事情について
横田:
「障害福祉×アート」の業界で取り組まれている事業者さんは比較的多いように思うのですが、うまくいっている事業者さんとそうでない事業者さんとで大きな違いがあるような気もしています。その差はどこにあるのか、フクフクプラスさんの取り組みからヒントを見つけたいと思っています。
まずお聞きしたいのですが、この「障害福祉×アート」の業界に対して、どのような印象をお持ちですか?
高橋:
そうですね、なんかちょっと、あんまりかっこよくないな、という印象は正直ありますね。うちはアート×障害者福祉×デザインという領域で取り組んでいることもあり、いかにデザインでかっこよく見せるかを意識していますが、福祉施設にはちょっと苦手な分野だとも思うので、どうデザインの力で業界のかっこよさを引き上げていくか、というのはポイントになるのかなと。
横田:
なるほど、そうですね。例えば、フクフクプラスさんが取り組まれている法人向けの研修サービスや、アートレンタル事業、ノベルティの開発など、障害者アートを落とし込んだサービスやプロダクト(商品)をみても、デザインの力を上手く活用されていらっしゃっることがよくわかりますし、業界内でもユニークな存在になっている一番の要素になっているように思います。
あと、掲げていらっしゃる「障がいのあるなしに関わらず、お互いの違いを認め合い、誰もが自分の可能性を発揮できる社会を実現します。」というビジョンの通り、関わる方、特に障害者アーティストの方の才能・能力が社会にしっかり届くように事業設計されている点からも、デザインを軸に据えていらっしゃる印象を受けました。
高橋:
ありがとうございます、そうですね。障害のあるなしに関わらず、というところがぼくの中では重要で、実際に働きにくさを感じている人って、例えば生活保護受給ぎりぎりの方とか、ひとり親世帯の方とか、LGBTの方とか、障害のあるなしに関わらずいろんな方がいらっしゃいます。どうしても障害のある人ばかりフォーカスされてしまいがちけど「あの人たちばかりずるい」みたいな、なんかそういうのが嫌で。事業自体は障害のある方に特化して進めてはいますが、みんながフラットに生きやすい世の中になればいいなと思っています。
フクフクプラス内での髙橋さんの役割について
横田:
共同代表が3人いらっしゃると思うのですが、事業を進めていく上での役割分担についてお伺いしたいのですが、高橋さんの立ち回りとしては、フクフクプラスで展開していく事業や、プロダクト、サービスを浸透させていくというか、福祉業界と繋ぐ橋渡しの役割をされているのかなと思ったのですが、いかがでしょうか。
高橋:
はい、まさに。ぼくのフクフクプラスの名刺にはストーリーテラーと書いてありまして、「ストーリーを伝える人」なんですが、そのストーリーが何かというと、福祉施設上がりのぼくだからこそ伝えられる「福祉業界ってこういう業界で」「今ぼくたちがやろうとしてるのはこういうで」といった内容を、福祉現場とのパイプ役になるときや、企業との接点を持つときにお伝えする役割かなと思っています。
横田:
なるほど、福祉業界はやはりちょっと後進的な業界というか、変化の速いITなどの業界とは全く世界が違うと思っていて、使っている言葉も違うし、新しい取り組みを始めるときにもその意図が伝わりにくかったりする中で、その理解を得るための行動は絶対必要だと思うので、高橋さんの役割は大きいのかなと。
高橋:
そうですね、例えば、福祉の現場の人たちって、どうしても株式会社が入ってくると「なんか搾取しに来たの?」とか、「自分たちの会社の名前を売りたいたいだけじゃないの?」とか、ちょっと壁ができそうじゃないですか?そういうのは嫌だなと思って。ぼくもずっと福祉業界にいたので、はじめは大企業が敵だとかお金儲け悪いことだとか、ずっとそういう風に思ってました。
フクフクプラスを立ち上げるときも、株式会社ではなく一般社団法人とかNPOの方がいい、という意識がどうしても強かったんですが、でも最終的には持続可能なカタチでしっかりやっていくべきだと思い株式会社として設立しています。株式会社としてのフクフクプラスと障害者施設との間に壁ができないように、福祉出身のぼくの役割は、その壁を緩衝するポジションになるかなと思っています。
横田:
なるほど、ありがとうございます。
事業性があるかどうか、収益が上がっているかどうか、持続するかどうか。こうした考え方はやはり非営利の事業形態とは全く別の思想になりますからね。ビジネス的な価値観の中でこそ、デザインのチカラが活きてくるものだとも思うので、やはりこの辺りの考え方に関してもフクフクプラスさんの軸となるユニークなポイントだなと改めて思いました。
高橋:
ありがとうございます。
フクフクプラスの事業について
横田:
アートレンタル事業や、対話型アート鑑賞など、やってらっしゃると思うんですけど、メインの事業はやはりそこになるんですかね。
高橋:
そうですね、①対話型アート鑑賞を用いた研修事業と、②アート作品のレンタルと、③障害者アートを使ったイベントの企画、そしてこれらを企業の中で取り入れていくお手伝いなどもありますが、この3本柱がメインになりますね。
イベント企画事業について
横田:
イベント企画はどういうことをされていらっしゃるんでしょうか。
高橋:
例えば、渋谷区原宿にあった複合施設「原宿クエストさん」が閉館してしまって(2021年10月10日閉館)そのときに、お客様や一緒に働いていた仲間に感謝を伝えたいという目的で、せっかくなら地域にあるシブヤフォントを使ったコラボイベントができないかと問い合わせをいただいたところから企画がはじまりました。
THANK YOU!HARAJUKU QUEST|原宿クエスト
最終的には、従業員の方ひとりひとりにシブヤフォントの「THANK YOU」などの文字に色をつけてもらって、お客さんが入ってくる一番メインのエントランスにデカデカと貼って感謝の気持ちを伝えてみたり、ホームページを立ち上げて、このストーリーを見える化して動画で配信してみたり、最近ですとそんなイベントを企画しましたね。
横田:
イベントという手段を活用したプロモーションみたいな感じですよね。フォントをデザインしている点ももちろんそうですが、感謝を伝えるという目的に合わせたイベント企画自体にもデザインの力を感じました。
高橋:
ありがとうございます、デザインの力でみんなの力を届けられるような、障害のある方のアートの力を伝えられるような、そんな風に持っていければと思っています。
アートレンタル事業について
横田:
一番メインを占めているのがアート関連の事業かと思うのですが、障害者アーティストさんが作ったアート作品のレンタルだったり、研修サービスだったり、その辺りの取り組みもお伺いさせてください。
高橋:
そうですね。この話をすると「ぜひ私のアートも使ってください!」とお声がけいただくことがあって、嬉しいお話ではあるのですが事前にお話しておくと、現在使用してるアートは全てエイブルアートジャパンの登録作家さんのアートをお借りしています。エイブルアートさんは日本で古くからやられている障害のあるアーティストさんをもっと世の中に広めていこう、という目的の団体さんになります。
中には、障害のある人たちの表現活動をどんどん世の中に出していきたいから、誰のアートでも募集します!という団体さんもいらっしゃいますが、やっぱり障害のある方の作品でも、アートとして認められるものとそうでないものはありますし、障害があれば何でもいいの?みたいな、そんな風になってしまうのも違うかなと。
そうではなく、ある一定の審査を通った、アートとして認められたものだけを貯蔵している団体さんと連携して、企業さんにアートをお届けしています。ぼくたちが設置するのもあれば、地域のB型作業所さんA型作業所さんと代理店契約を結ばせていただいて、工賃が発生するような形で企業さんと繋げていく、といったスタイルで取り組んでいます。
横田:
市場的にもしっかり価値が認められたアート作品を扱っていらっしゃるということですね。障害があれば何でもいい、という考え方とは異なる点が、なるほどと思いました。
また印象的なのが、こうしたアート系の事業を展開されている福祉施設さんは単体で進められているイメージがあるんですけど、フクフクプラスさんはA型B型の作業所さんと組んだりとか、アートの取りまとめをしてらっしゃるところと組んだりとか、そのあたりがすごく上手だなと思いました。
高橋:
ありがとうございます。共同代表3人の中でも、ぼくが元々個人でやってるときからお付き合いのあった障害者アート団体さん、あと共同代表の磯村・福島がそれぞれ個人でやってるときに付き合いのあった障害者アート団体さんがうまくバラバラだったんです。どうしても障害者団体も自分たちだけで取り組まれていて、もしかしたらライバル会社同士になっちゃうかもしれないので、あんまり横串を刺して連携することがなかったんです。
なので、フクフクプラスに相談すれば「風景画であれば、ここに所属してるこのアーティストさんいいですよ」とか「食べ物系だったらこの人いいですよ」とか、そういう風に今までできなかった壁を飛び越えるようなポジションになれればいいな、という風に思っています。
横田:
なるほど。入口としては、お知り合いがいたから、というのもあったと思いますが、やはり根幹にあるビジョンや軸をしっかり持たれている点がそうした協力関係やポジションを築いた秘訣になったのかなという風に思いました。冒頭にもお話ししましたが、アートを使った障害福祉サービスが複数いらっしゃる中で、フクフクプラスさんは本質的な「なぜアートか?」という部分をしっかり見据えて取り組まれている印象を受けるんです。それがまさに研修サービスとして企業向けにされている点にも出ているかなと。
ニューヨークのMoMAに世界のエグゼクティブの人たちが朝ギャラリーに通って感性を高めてビジネスに活かしているように、世界的にアート自体の重要性は高まっている中で、日本ではまだまだアートに対する認識は弱いので、フクフクプラスさんが取り組まれているアートの価値自体はなかなかビジネス的な文脈で伝わりにくいのかなと思うのですが、そんな日本の背景の中で、事業としてアートを使った法人向け研修などを行うその価値観が凄く素敵だなと思いました。
「アート思考」だとか言われるようになりましたが、アートを流行として捉えるのは違うと思いますし、障害者さんといえばアート上手でしょ?みたいな見方とは全く別の価値観で、ビジョンを掲げて取り組まれているので、そこがすごいなと。
高橋:
ありがとうございます。まだまだ市場はそこまで振り向いてくれていなくて、ある一定の勉強されてる方はアンテナ張って見に来てくれるんですけど、一企業の人事部の人がそこまで知ってるかと言うと、なかなかそうではなくて。もがきながらですが、持続可能なカタチで、少しずつ積み上がってきている雰囲気は感じていますけどね。
横田:
そうですね、アートの重要性自体はなんとなく上辺で高まってきてるような気はしていますが、本質的なところが届くようになったらいいですね。
株式会社フクフクプラス
引用元:https://fukufukuplus.jp/